神戸地方裁判所 昭和35年(行)6号 判決 1963年5月28日
原告 味地巧
被告 兵庫税務署長
訴訟代理人 山田二郎 外四名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
証拠<省略>
理由
一、原告主張の請求原因事実中、一の事実は当事者間に争いがない。
二、原告は、本件更正は原告の昭和三三年度の所得金額(以下本件所得金額という)の認定を過大に誤つた点において違法であると主張するので判断する。
(一) 被告において本件所得付金額を推計方法により算出することが許されるか否かについて
原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第一号証に、証人柴恒定の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、昭和二六年頃から肩書住所地で理髪店業を営み、その営業収入を唯一の収入とするものであるが、兵庫税務署係員が本件所得金額の査定をなすについての調査をなした際、同三三年度における右営業の収支を記帳した金銭出納帳(甲第一号証)を右査定の資料として右係員に提出したこと、右帳簿以外には、右査定に充分な帳簿等の書類を備えていなかったことを認めることができる。
そこで、右原告提出の金銭出納帳が信頼に価するものであるか否かについて判断する。
前記甲第一号証、文書の方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される乙第七号証、証人関博の証言を総合すると、原告は同三三年六月八日に同三二年一月分から同年一二月分までの前記営業用店舗兼原告住居用家屋の敷地の賃料合計金六、六〇〇円を賃貸人赤浦敬一に支払つたにもかかわらず、前記金銭出納帳にその記載がないことを認めることができる。
また、前記中第一号証、文書の方式及び趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証によると、原告は同三三年中に株式会社三菱銀行兵庫支店の普通預金口座に三〇回に亘り合計金三八万四〇七二円を入金しているが、前記金銭出納帳には右預金に照応する収入金の記帳がなされていないことを認めることができる。原告は、右預金中、同三三年一月七日入金の金一五万四二一五円は同三二年度以前の収入をもつてなした定期預金が満期になつたのでこれを普通預金に振替えたものであり、その余の二〇万円余の預金は赤浦敬二から数回に亘つて借用した金員をもつてなしたものであると主張するが、原告本人尋問の結果中右主張に副う供述部分は措信できず他に右主張を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、前記乙第七号証によると、赤浦敬二は同三三年中に原告に対し金員を貸付けたことがないことを認めることができる。そして、原告は他に前記預金に当られた金員の出所について主張立証をしない。
以上、認定の事実に前記金銭出納帳(甲第一号証)の記載の態様を総合すると、右金銭出納帳は、本件所得金額を査定する資料として、信頼に価するものではないというべく、而して右金銭出納帳のほかに右査定の資料としての帳簿等を原告において備えていなかつた以上、被告において本件所得金額を推計方法により算出することが許されるというべきである。
(二) 文書の方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるので真正な公文書であると推定される乙第一号証及び乙第二号証に証人多田稔、同柴恒定の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告の営業状況が特に一般理髪店と異なる点はなく被告が本件所得金額の推計にあたり適用した、大阪国税局作成の昭和三三年分所得業種目別効率表(乙第一号証)及び同国税局作成の同年分商工庶業等所得標準率表(乙第二号証)は原告の同三三年度の収入金額及び特別経費(雇人費、地代家賃、減価償却費、等の同一業種においてもその有無または額が一般化できない経費)控除前の所得金額の推計に適用するにつき、合理性を有するものと認められる。
そこで、以下被告が右効率及び所得標準率を適用してなした本件所得金額の推計が正しいか否かについて、判断する。
(三) 収入金額
原告本人尋問の結果によると、原告は同三三年当時、理髪用椅子四台を設備し、原告、その父(当時七〇才)、雇人二人(うち一人は見習程度のもの)を従事員として、理髪業を営んでいたこと、右従事員のうち原告の父と雇人の一人は能力的に通常の従事員より劣るので、原告の右営業の従事員は、通常の能力者に換算して三人とみられることを認めることができる。
そして、前記効率表(乙第一号)によると、京阪神三都市の理髪業における従事員一人当りの収入金加重平均効率は二〇万一〇〇〇円、椅子一台当りのそれは一四万一〇〇〇円であるから、右効率表が採用している加重平均算式に基き算定すると、原告の昭和三三年度の収入金は一一六万七〇〇〇円と推計される。
算式 201,000×3+141,000×4
四、特別経費控除前の所得金額
前記所得標準表(乙第二号証)によると、理髪業の所得標準率は七五%であるから、前記収入金額にこれを適用して算定すると原告の昭和三三年度の特別経費控除前の所得金額は金八七万五二五〇円となる。
算式 1167.000×0.75
五、特別経費
(一) 雇人費
同三三年度における雇人費が一九万五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(二) 地代
前記乙第七号証に原告本人尋問の結果によると、原告の前記営業用店舗兼居住用家屋の敷地の同三三年度の地代総額は金八一三〇円であること、右敷地のうち右営業専用部分は全体の二分の一にあたることを認めることができる。すると特別経費として原告の収入より控除すべき地代の額は金四〇六五円が相当であると認められる。
(三) 建物減価償却費
証人関博の証言によると、前記原告の家屋の取得価額は金四〇万円、耐用年数は三〇年、三〇年後の残存価額は右取得価額の一割、前記営業専用部分は右家屋全体の二分の一であることが認められるので、右事実を基にして、右家屋のうちの右営業専用部分について同三三年度における建物減価償却費を算定すると、それは金六一二〇円となる。
算式 400,000×0.5×0.9×0.034
六、本件所得金額
前記特別経費控除前の所得金額八七万五二五〇円から右特別経費の合計額二〇万五一八五円を控除すると、本件所得金額は金六七万〇〇四五円となる。
七、すると、被告が本件更正において認定した本件所得金額四四万二〇〇〇円は右推計に基く所得金額より低額のものであるから、本件更正は原告主張のごとき違法のものではない。
よつて、原告の本訴請求はこれを失当として棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村上喜夫 奥村長生 黒田直行)